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聴き方のヒント

指揮者って何者?同じ曲が別物になる、楽器を持たぬ人の仕事

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クラシックのコンサートを選ぶとき、多くの人はまず演奏曲目を見ます。次に、どのオーケストラが演奏するのかも気になるところでしょう。
でも、もう一つ。実はコンサート選びの大事な軸があります。

それが、どの指揮者が振るのか、という視点です。

みなさんは指揮者にどんなイメージをお持ちでしょうか。学生の頃、合唱でクラスの誰かが前に立って指揮をしていた記憶がある方もいるかもしれません。みんなが合わせやすいようにテンポを示したり、身ぶりで盛り上げたり。指揮者はそんな役目、という印象も自然です。

けれどクラシックの世界では、指揮者が変わるだけで同じ曲が別物のように聴こえることがあります。ポップスでいうと、同じ曲でもアレンジャーやプロデューサーが変わると空気が変わる、あの感覚に少し似ています。

この記事では、指揮者が実際に何をしているのか、そしてなぜクラシック愛好家が指揮者でコンサートを選ぶのかを、できるだけやさしく解説します。

指揮者は何をしている?ざっくりと3つ

① テンポを決める

いちばん体感しやすいのは、テンポの違いだと思います。
同じ曲でも、少し走るように進めるのか、それともどっしり歩くように進めるのか。ここは指揮者の判断で大きく変わります。

さらに面白いのが、盛り上がる場面でのテンポの揺らし方です。ほんの少し間をつくったり、少しだけ前に押し出したり。そのさじ加減ひとつで、聴いている側の心のつかまれ方が変わってきます。
この絶妙なテンポの設計は、指揮者の大事な腕の見せどころです。

② 音のバランスを整える

オーケストラにはたくさんの楽器がいて、同時にいろいろな音が鳴っています。だからこそ、どの音を前に出して、どの音を支え役に回すかで、景色が変わります。

主役のメロディをくっきり見せるのか。あるいは、普段は目立たない内声のメロディをそっと浮かび上がらせるのか。
ここを整えるのも指揮者の仕事です。

聴いていて、今の音こんなにきれいだったんだ、と気づかせてくれる指揮者は、聴く楽しさを増やしてくれるタイプだと思います。

③ どこをクライマックスにするかを選ぶ

テンポや音のバランスを整えながら、この曲のいちばんの山場をどこに置くかを決めるのも指揮者の仕事です。

クラシックには、30分、1時間と続く長い曲も多くあります。そういう曲は、ただ大きい音が出たところが自動的にクライマックスになるわけではありません。どこまで力をためて、どこで一気に解放するか。その設計で聴こえ方が変わります。

早めに山をつくって勢いで進める指揮者もいれば、途中は抑えて最後に大きな頂上を用意する指揮者もいます。だから同じ曲でも、ある演奏はスッと進み、別の演奏は物語をじっくり味わうように感じられるのです。

実際に聴いてみよう

それでは、実際に聴き比べをしてみましょう。今回選んだ曲はモーツァルトの交響曲第40番です。
モーツァルトの作品の中では、どこか影が差すような雰囲気があって、少しだけダークに感じる曲です。
この影の色合いをどう描くのか。指揮者が変わると、同じ曲でも表情がぐっと変わります。今回は3人の演奏で聴き比べしてみましょう。

聴くポイントは3つ。
テンポの体感、音の透明感と厚み、そしてどこで一気に盛り上げるか。まずは第1楽章の冒頭から2〜3分だけでも十分違いが分かります。

ブロムシュテット 純粋で透明、でも強弱がとても繊細

ブロムシュテットは、音がすっと澄んで聴こえるタイプです。全体としては端正で、感情を盛りすぎないのに、よく耳を澄ますと強弱のつけ方がとても細やかです。

聴いてほしいのは、冒頭の動きが軽いのに、緊張感が薄れないところです。大げさに煽らず、音の出入りをきれいに整理することで、この曲の不安げな表情がすっと立ち上がります。
明るくはしない。でも重く塗りつぶさない。その絶妙なバランスが、透明さの正体だと思います。

ペルトコスキ 速いテンポで迫る、じわじわ来て一気に盛り上げる

ペルトコスキはテンポが速めで、前へ前へと進む推進力が魅力です。ただ速いだけではなく、最初から全力で飛ばすというより、圧をかけるようにじわじわ迫ってきて、気づいたときに大きな波が来る感じがあります。

聴きどころは、同じフレーズが繰り返されるところで、緊張の密度が上がっていくところです。呼吸が短く感じられたり、気持ちが落ち着く暇がなかったりするなら、それは指揮者が意図的に作っている流れかもしれません。
この曲をドラマというよりスリラーのように感じさせる、そんな引っぱり方です。

バーンスタイン 遅いテンポで重厚、オペラのように歌わせる

バーンスタインは、テンポが遅めで、音楽に重力が生まれるタイプです。第40番の不安や影を、きれいに整えるというより、じっくり舞台化していくような印象があります。

聴いてほしいのは、フレーズの終わり方です。すぐ次へ行かず、余韻を抱えたまま次の音へ渡していくので、旋律がまるで歌っているように聴こえてきます。
その分、曲全体が重厚に感じられやすいのですが、ここが好みに刺さる人にはとても濃い体験になります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ぜひコンサートでは指揮者にも注目してみてください。
コンサートでは、耳だけでなく目でも指揮者を楽しめます。動きを見ていると、音楽がその場で形になっていく感じがして面白いんです。
注目ポイントはこの3つです。

  • 指揮者の左手:音の大きさや表情をつくる合図が出やすい
  • 目線:次に入ってほしい楽器へのサインが出ることがある
  • 立ち姿の緊張感:オーケストラ全体の集中のまとまり方が変わる

指揮者を見ていると、同じ曲でも音楽の表情が変わる理由が少しずつ見えてきます。

今回はここまで。
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    医師の聴く専
    20代の医師/クラシックは演奏できず、ほぼ“聴く専”。大学生の頃にクラシック音楽の魅力にハマりました。非専門家の目線で「初めてのコンサート」「チケットの取り方」「サブスクの聴き方」などを分かりやすく整理して発信しています。少しでも多くの方にコンサートへ来ていただくことが目標です。
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